概要
ことば | 休薬 |
---|---|
よみがな | きゅうやく |
英字表記例 | drug withdrawal |
意味
服薬を一時的に中断すること。
術前休薬の意義
休薬と似た言葉に「減薬」や「断薬」があり、これらは主に薬物治療を積極的にやめる試みを表現する場合に使用されます。
一方休薬は、治療の一環として手術前に実施される一時的な投薬治療の中断です。
手術中の医薬品の影響
いかなる外科手術でも、身体に対する侵襲をなくすことは出来ません。我々ヒトの身体は傷を付けると赤い血が流れるようにできています。
このとき、例えば抗血栓薬、抗凝固薬などのいわゆる「血液をサラサラにする薬」を服用した直後に手術を行うとどうなるでしょうか?
普段ならちょっとした切開創や、やむなく付いた臓器の傷は血が固まる作用によって自然に閉じられてしまいます。
しかし、「血がサラサラ」すなわち「血が固まりにくい」状態であれば、こうしたちょっとしたキズからも出血し続けてしまいます。
そうした薬物の悪影響を極力排除するため、休薬という措置が取られることがあります。
治療法の変化
かつては正しいとされ盛んに実施されていた治療法が、今ではほとんど見かけなくなったという事例はたくさんあります。
現代において正しいとされる治療法も、未来のある時点で捨て置かれるかもしれません。
術前の休薬措置についても議論があり、特定の外科的治療に際しては休薬を実施しないという方針が新たに支持される状況があります。
手術前以外の休薬
抗がん剤
がんの化学療法で用いられる抗がん剤などでは、投薬と休薬を交互に行い、最善の治療効果を目指す服薬デザインが採用されることがあります。
いささか強すぎる抗がん剤の副作用を最小限に留めつつ、患者の体力・気力が回復する期間を設けて最善の結果を得ようする試みは現在も改善が続けられています。
抗認知症薬
また抗認知症薬などの使用中、有害事象と呼ばれる不都合な作用が認められた場合には、いったん服用を中止して様子を見ることがあります。
こうした休薬は後々に服薬の再開を見越している場合が多いものですが、有害事象に耐えて薬物治療を続ける臨床的意義があるか否かは、投薬再開前に検討する必要があります。
致死的な疾患でない限り、薬を使わない断薬を目指すことも考えられます。
休薬期間(washout period, rest period)
『「休薬」を意味する複数の英語』(医薬翻訳者のタマゴたちへ)と題する記事では、「休薬(期間)」という日本語を考える上で非常に参考となる記載が為されています。
Drug withdrawal
有害事象に伴い、投薬を中止せざるを得ない場合には「Drug withdrawal」という英語が使用されます。ここには「期間」を指示するものはありません。
一度起こった有害事象は二度目の事態を避けるため、半永久的に中断(休薬)されます。
それは、断薬ということばの響きに近いと考えられます。
Washout period
新しい医薬品を開発する際に行われる治験では、クロスオーバー試験と呼ばれる、同じ人が期間を分けて複数の薬を飲む試験デザインが採用される場合があります。
前に飲んだ薬と、後に飲んだ薬の効果を同じ人で比較すれば、より正確な効果の比較が可能であると考えられるためです。
しかしながら、前に飲んだ薬の影響が残ったまま後の薬を飲み始めると、正確な比較はできなくなってしまいます。
そこで、前の薬が抜け切るよう、一定の「休薬期間」を設けてその影響を排除します。
これを英語で「washout period」と呼びます。
Rest period
上記で述べたように、抗がん剤や抗認知症薬では強い副作用として有害事象が発生する場合があります。
それは、薬が効いていることの証左であると考えることもできますが、患者の体力や気力を奪い続けるだけでは治療の意味はほとんどありません。
出来る限り体力と気力を保ち続けるよう、ずっと薬を投与し続けるのではなく、休み休み投与を行う場合があります。
この薬を与えない期間、すなわち休養に充てる期間を日本語では「休薬期間」といい、英語では「rest period」と言います。
複数ある「休薬期間」の意味も、英語表現の違いで捉えればすっきりと理解できます。