偽薬

偽薬

概要

ことば偽薬
よみがなぎやく
英字表記例dummy

意味

ニセの薬。本物の薬に似せた薬。薬効成分を含まない薬の形をしたもの。

偽薬とプラセボ

訳語としての偽薬

偽薬はプラセボの訳語として広く用いられていますが、偽薬はプラセボの一例でしかありません。

象徴としての偽薬

プラセボと偽薬の違いを適切に見定めることは、プラセボ効果の理解を深めてくれます。

プラセボとは、説明不可能な治癒効果としてのプラセボ効果を現出させるすべての物事です。具体的に指し示すことはできません。

偽薬はプラセボの一例ですが、偽薬のありようを容易に想像できることから、プラセボの象徴ともなっています。

「偽薬」の用例

『日本国語大辞典〈第4巻〉』によれば、日本語における「偽薬」の用例は貝原益軒の『養生訓』(正徳三年(1713)成立・刊行)まで遡ることができます。

(709)薬肆(やくし:薬屋)の薬に、好否あり、真偽あり。心を用ひてゑらぶべし。性あしきと、偽薬とを用ゆべからず。偽薬とは、真ならざる似せ薬也。拘橘(くきつ)を枳穀(きこく)とし、鶏腿児(けいたいじ)を柴胡(さいこ)とするの類(たぐい)なり。

『養生訓(益軒十訓)』http://www.i-apple.jp/youjou/

なお、「placebo」は「死者のための晩課」という意味では1200年以前より使用されていましたが、医学辞典に初めて掲載されたのは1785年です。

したがって、1713年に既に記載のある「偽薬」は、「placebo」の輸入に際して新たに創られた言葉ではないと推測されます。

偽薬の訳語としての「dummy」

「Placebo」が初めて日本に導入されたのがいつ頃かは判然としませんが、恐らくその意味するものを知った日本人は「それって、偽薬よね」と思ったに違いありません。

その後、現在に至るまで「placebo」の訳語として「偽薬」が用いられています。

ところが、ここには以下の問題があります。

  1. 「偽薬」はモノを指す言葉だが、「placebo」はその用途(喜ばす、気休め)を語源とする言葉である。
  2. 「Placebo」は偽薬だけでなく、偽手術や医者の気休めの言葉をも含む。

そのため、『世界大百科事典(改訂新版、平凡社)』には偽薬を“ダミー dummy(替玉)と呼ぶことが提案されている。”との記載があります。

また、中国語では「placebo」の訳語として「安慰劑」が当てられていますので、1.に関しては以下の対応で何とか凌ぐことが出来そうです。

指示対象日本語英語中国語
もの偽薬dummy偽薬
使い方気休め薬placebo安慰劑

ただし2.の問題に関してはやはり、より広い意味を含む「プラセボ」のカタカナ表記を用いるのが適当であるように思われます。

偽薬の有効活用

偽薬と言う漢字表記には些か否定的なニュアンスがありますが、「人の為の薬」あるいは「人の為になる薬」と読めば肯定的な意味になります。

以前から日本語では「気休め薬」として、偽薬が使用されてきました。

偽薬は、その字面の怪しさ、いかがわしさからか、積極的に医療あるいは生活に取り入れようとする試みが日の目を見ることはありませんでした。

しかし、使いようによってはこれほど使えるものはありません。

当社は、偽薬の無効性という特徴やプラセボ効果を有効活用することを推進しています。