概要
ことば | シュードプラセボ |
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よみがな | しゅーどぷらせぼ |
英字表記例 | pseudo placebo |
意味
少量の薬効成分を含むが、検出可能な影響を人体に及ぼすほどの薬理学的効果は期待できない対照薬。
医薬品の臨床試験で用いることがある。
設定例
例えば、人に投与した際に奏効すると考えられる成分の量が「10 mg」あるいはそれ以上のとき、同成分を「1 mg」含むものを対照薬とした試験を実施します。
このとき、「1 mg」を含むものは効果が期待できないことから、有効であると証明したい化合物を含む薬と言えど、偽薬の一種として扱えるものとみなす場合があります。
薬効成分を含まないことを特徴とするプラセボに対して、微量の薬効成分を含む対照薬を特別にシュードプラセボと呼びます。
pseudo
「シュード」は「pseudo」のカタカナ表記・発音であり、「偽りの、にせの、まがいの」を意味する。
「シュードプラセボ」という言葉は「プラセボ」自体に「偽りの」という意味があり、そこに「偽りの」を重ねて二重否定様に使用した面白い言葉です
無理やり日本語訳するなら「ニセ偽薬」、「擬似偽薬」と直訳するか、あるいは「過少成分対照薬」と意味的に捉えて訳する必要があります。
プソイド
なお、総合感冒薬(風邪薬)などに含まれる「プソイドエフェドリン」も「pseudo-」の接頭辞が付く言葉であり、「プソイド」と読み方は違えど、おなじく「偽りの」という意味を表します。
シュードプラセボを使う理由
シュードプラセボは治験(新薬の効果を評価する臨床試験)において用いられます。
その理由として考えられるのは、純粋な偽薬を利用した試験が被験者の事前同意を得にくいためです。
インフォームド・コンセント
治験に際しては、被験者に対する正確な説明と、自発的な意思に基づく同意が不可欠です。この方針はインフォームド・コンセントとして一般化されています。
しかし、治験において偽薬を使用する場合があることは、被験者にとって常に望ましいというわけではありません。
被験者「プラセボとは何ですか?」
医師「薬効成分を含まない偽薬です」
被験者「有効な投薬治療を受けられない可能性があるのですか?」
医師「治験薬の効果を正確に判定するには欠かせないものです」
被験者「それはそうかもしれないが、治る見込みもないなら参加は見送りたい」
インフォームド・コンセントは昨今の患者中心医療の要です。
しかし、正しい情報をどう解釈し、どのような行動をとるのかは各患者、各被験者に委ねられています。正しい情報を十分に理解した結果、臨床試験のシステムそのものに疑念を抱く可能性もあります。
医学・薬学の発展のため実験体として自らの身体を差しだす、ある種の自己犠牲精神が意に沿わない場合、治験への参加は見送られることになるでしょう。
これでは治験参加者が集まらず、統計解析を行うのに十分な数の被験者を集めることができません。
心理的な壁を超える言い訳
そこで、何らかのエクスキューズ(被験者自身が治験参加に前向きになるような事柄)が必要になります。
ここで持ち出される言い訳的に用いられる説明が、シュードプラセボの「少量の成分を含む」です。
奏効量ではないけれども、まったく成分を含まないわけではないことの重要性は、被験者自身の納得のためであると考えれば非常に合点がいくように思われます。
プラセボ効果のこと
また、有効であることを証明したい成分を一切含まない純粋な偽薬を対照薬として行う試験では、そこで見られた何らかの改善は、プラセボ効果だと結論付けるしかありません。
プラセボ効果であるとは、すなわち、説明不可能であるということです。
一方、シュードプラセボを対照とした場合に対照群に見られた何らかの効果は、ある意味で「プラセボ効果」であるとも言えますが、その純粋性には若干の疑い差し挟まれることになるでしょう。
説明不可能ではない可能性があるという、ややひねくれた状況に安心感を見出すことが出来るかもしれません。
ほんとうに無効か?
人における奏効成分量は、試験フェーズによっては異なりますが、今まさに行おうとしているその試験が証明しようとしていることです。
従って、シュードプラセボに対して効かないことを期待するのは、ある種の思い込みや先入観など恣意的な基準に依らざるを得ません。
「少量の効果が期待できない実薬」は、本質的には、「少量のため効果を期待しない実薬」のことであり、こちらの定義がより現実的な認識であるように思われます。