プラセボを讃える叙事詩

プラセボを讃える叙事詩

概要

ことばプラセボを讃える叙事詩
よみがなぷらせぼをたたえるじょじし

詳細

パトリック ルモワンヌ著『偽薬のミステリー』(紀伊国屋書店)では、プラセボに讃える素敵な詩が紹介されています。

愛しいプラセボ

われプラセボを愛す。
なによりも、そのかわいらしい名のゆえに。
今や医学のラテン語名はまれとなるも、
いまもなお、世界ほどに古き名は、
治療もまた古きことを示す。

私がプラセボを愛するわけは、それが権威に絶えず挑戦し、
治療の確信という畑に疑いの種を蒔くから。
その疑いのひとつは、
われらが永遠の真実と思いこんでいるものを、
やさしく揺さぶり、われらの熟慮を刺激する。

私がプラセボを愛するわけは、それが矛盾の痕跡だから。
偽りの真実、真実の偽り、
理性の魔法、魔法の理性、
現実の幻影、
そして、もちろん、幻影の現実。

私がプラセボを愛するわけは、それが患者への「還元」的アプローチの限界を象徴するから。
患者が知らぬ間に追いこまれるメカニズムの世界は、
純粋に心理的な次元、あるいは、生物学的な次元にある。

だが、私は思う、私がプラセボを愛するのは、今日のだれも、
私の知るかぎりにおいては、
その完璧なる使用法を見出してはいないから。

ジャン-ジャック・オーラ

『偽薬のミステリー』(274-275ページ)

プラセボ効果の持つ神秘性は、詩人をも惹きつけます。科学の最先端は、いつだって文学に近寄っていくようにも感じます。

『偽薬のミステリー』について

『偽薬のミステリー』はフランス語で書かれた書籍の日本語翻訳版です。

数多くの患者に接してきた医師としての経験と過去の知見をミックスして、“不思議を楽しむ”原著者の筆致はとても面白く、プラセボのことを考える上で重要な示唆を与えてくれる良書です。

『偽薬のミステリー』