断薬

断薬

概要

ことば断薬
よみがなだんやく
英字表記例drug deprivation

意味

継続的な服薬をやめること。またはその試み。

要指導

継続的に服用していた医薬品をやめようとする試みであり、特に精神科、心療内科関連の疾患における薬物治療の積極的中断を実施する場合に断薬ということばが用いられます。

通常は、薬を減らしたり止めたりすることで一時的に起こる症状である禁断症状や離脱症状に注意を払いつつ、医師の指導の下、実施されます。

断薬にむけて

薬は効く、ことがある

医薬品として販売されているものの多くは、服用すれば必ず効果があるものではありません。

医薬品の販売に先立ち実施される臨床試験では、偽薬との比較において、有効性として設定する指標に有意な差があることが求められます。どれだけの確率で、どれほどの効果が出るかは検証されません。

医薬品の成立過程を考慮すれば、医薬品は効かないことがある、という表現は適切ではありません。

医薬品は効くことがある、と控えめに表現するのが適切です。

薬の増量に関する疑義

特定の診療科において、患者を薬漬けにする治療がなされていた事実があります。

薬漬け療法は患者の病状を悪化させる場合があり、さらなる服薬、増薬が実施されます。

治癒しないのは薬が足りないからだ、と都合よく解釈されるためです。

薬は病気を治すものではありません。治癒しないからといって、薬の効果を疑い増量を繰り返すのは、投薬治療の方法論として適切ではないのです。

投薬治療の目標

一般的に投薬治療の目標は、症状をコントロールして治癒を助けることです。

疾患は、医薬品のおかげで治癒するのではなく、医薬品の助けを借りて、患者自身が有する回復力のおかげで治癒します。

世に出ている大半の薬は病気そのものを治癒する根治薬ではなく、病気に伴って起きる身体の異変を部分的に正常に服するよう調整する対症療法薬なのです。

根治薬は治るまでの限定的な期間に服用する薬です。対症療法薬もまた、生涯服用し続ける薬ではありません。

漫然と服用し続ける対症療法薬は、増薬ではなく、減薬や断薬を試みる対象です。

断薬に関する教育の不足

薬の専門家たる薬剤師を養成する機関として薬学部があります。しかし薬学部において、減薬や断薬が明確に教えられることはありません。

治療方針に関して患者の意思決定を大きく左右しうる医師の養成機関である医学部でも、状況は同じです。

作用機序優先

教育機関には、薬に関する前提があります。

クスリを飲めば、病気が治る。病気が治ればクスリは必要ないのだから、自然にクスリは要らなくなる。

自明の前提の如く、こうした考え方が広く共有されています。

その理由の一つは、投薬治療に関する教育の大半が作用機序に関するものだからです。

作用機序とは、分子生物学的な知識を背景に、薬理学的作用が人体に及ぼす影響を説明するものです。

作用機序教育において、薬は効くものです。薬が効かない理由を、作用機序の説明からは見出すことが出来ません。

薬が効くという前提がなければ、作用機序に関する明快な説明は困難です。

しかし先に述べたように、薬は効くことがある、と表現することが現実的に適切です。作用機序の明快な説明ができるという事実は、薬が効くという前提の正しさを保証しません。

作用機序とプラセボ効果

薬は効くことがあり、効かないこともある。こうした現実的な状況は、薬理学的な作用機序だけでは説明できません。

科学的に説明不可能な治癒現象としてのプラセボ効果を持ち出すことでしか、説明がつかないのです。

プラセボ効果は効くことがあり、また効かないこともあります。

作用機序から想定される薬効が認められないのであれば、それは、そもそも薬効の一部しか作用機序では説明できないためです。

薬が効かないこともあるのは、薬効の一部をプラセボ効果が担っていると考える必要があります。

断薬と偽薬

偽薬は薬効成分を含まない薬のニセモノです。

断薬する際に中断され減らされるものは、薬物の量や薬剤の数だけではありません。「薬を飲んだ」という実感も断たれ減ってしまいます。

プラセボ効果の存在を信じるのであれば、この「薬を飲んだ」という実感を断ったり減らしてしまうことには注意が必要です。

この実感こそが薬効の本体かもしれません。

プラセボ製薬では、断薬を試みる際には薬の似せて作った食品としての偽薬を有効利用できると考えています。

偽薬と、薬を減らす教育

これからの医学部、薬学部は、薬のない生活を提案できるよう教育・研究を充実させていかなければならないように思います。

自己否定を伴う思想の変遷には抵抗があったり、時間がかかったりするのかもしれませんが、いずれは断薬や減薬とともに偽薬が主要な教程に載せられることを願って止みません。

陰謀論ではなく

売り上げの大きな医薬品のほとんどは、いったん服用を始めればその後も継続して飲み続けなければならない対症療法薬です。

なぜなら、ずっと飲み続けなければならない薬なら、ずっと売れ続けるのだから。と陰謀論的に解釈するよりは、むしろ病気自体を治すことが極めて難しいためと考えるのが自然です。

ビッグ・ファーマとよばれる巨大製薬企業が売り上げを最大化するために生かさず殺さず、患者から搾り取るために敢えてそうした「治さない医薬品」を開発し続けているという陰謀論は、眉に唾をつけて受け止めるべきです。

むしろ、複雑すぎる人体を科学的に治すことが恐ろしく難しいため、あるいは不可能かもしれないために対症療法薬の売り上げが大きくなるでしょう。

減薬や断薬に関する教育が不足しがちなのは、それらが治癒を最終目的とする薬学の敗北であると考えられているためかもしれません。