概要
ことば | 薬効心理学 |
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よみがな | やっこうしんりがく |
英字表記例 | medicinal psychology |
意味
医薬品の作用に及ぼす環境を心の影響という観点から見る学問。
参考
「薬効心理学」は薬学者である寺田弘氏により提唱された。
薬学は薬に関するサイエンスを学ぶ学問領域であるが,薬は生体内で効かなければ意味がない.薬の効果をもっと効果的にするにはどうしたらいいか.そのためには心の問題をも含んだ生体環境との関連で薬の効果を考えなければならない.プラセボやノセボは薬の効果に影響を与える大きな心理的な要因である.これらは,心理的な力が身体の機能に影響を与えることに起因しており,認識における錯覚が原因なのである.
薬剤師が医療現場で取り組んでいる服薬アドヒアランスも心の持ち方と薬効との関係に密接に関連しているし,ストレスで薬の効果が変化するという現象も同様であろう.心理的な力を薬効との関連でとらえる“薬効心理学”は,薬という化学物質を生体がどう認識しているかという生命現象の根幹をなす課題と密接に関連している.この問題に取り組むことによって薬学を未来性のある科学に仕上げることができるのではないだろうか.
薬効心理学:心が身体に及ぼす影響(『薬剤学』2019 年 79 巻 1 号 p. 36-40)
DOI:https://doi.org/10.14843/jpstj.79.36
対象範囲
心的体験を有する生物(特に人間)
薬効心理学は「薬を服用する患者の心理」および「薬を投与する治療者の心理」を主な対象とする。
加えて「患者の親族・知人」や「治療者の協働者」の心理的側面が対象となる場合がある。
動物実験等でも人間の場合と同様に、実験者と被実験動物の心理的側面が薬効に及ぼす影響を考慮する必要がある。
薬
- 薬を服用する患者の心理
- 薬を投与する治療者の心理
上記の対象に関する記述のうち「薬」は、「有効成分たる薬物に関する情報」と「製剤化され剤型を有する薬剤」に分類できる。
なお何を薬と見做すかは文化的に決定されるため、薬効心理学においては薬物治療の文化的な側面も考慮される。
行為
- 薬を服用する患者の心理
- 薬を投与する治療者の心理
上記の対象に関する記述のうち「服用する」および「投与する」は多義的な行為の代表として挙げたものであり、表現や意味には多様性がある。
服薬行為や投薬行為もまた文化的に決定されるため、薬効心理学においては薬物療法にかかわる行為の文化的側面も考慮される。
薬効の統合的理解
薬とは何か
薬効心理学では薬物治療以外に、主として行為が治療効果を発揮すると目される治療法についても、その心理的側面に関心を寄せる。
- 理学療法
- 運動療法
- 手技的療法
- 認知行動療法
- 感覚刺激療法
- 呪術的療法
- 宗教的療法
- その他
薬物療法における心理的側面と非薬物療法における心理的側面の共通点および相違点に関する理解が深まれば、人間にとって医療とは何か、医療において薬とは何かが明らかになると期待される。
進化的観点
- 人間は医療に何を期待するか
- 人間は医薬品に何を期待するか。
薬効心理学的に重要なこれらの問いへの回答は、進化に基づく人間心理の理解(進化心理学)を背景としていなければならない。
あらゆる医療における心理的側面の統合的理解を基礎とし、薬物療法を中心に据えた近代西洋医学への応用を主題とする薬効心理学は、進化的観点を採り入れた進化医学を志向する。